関根日出男 先生も原詩研究に書かれていた通り、原詩の趣きは全く消えてしまっているものが殆どです。
季節感を表す表現もヨーロッパの気候に沿っていますので、不思議に感じられるかと思います。
108年前、ヨーロッパで日本はまだまだ知られていなかった、だからこそ、興味を持つ人も多かったんでしょうね。
ニッポナリ...日本也...、マルチヌーの感じた日本...。
関根日出男 先生による訳詞です。
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マルチヌー『ニッポナリ』
《 関根日出男 先生による対訳 》
小オーケストラ伴奏と女声のための7つの歌曲集
1. Modrá hodina / 青い時(額田王=ぬかたのおうきみ)
原詩:熟田津(にきたつ)に 船乗りせむと 月待てば
潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな
君は見るか ゆるやかに
おぼろ月の 山の端に登るを
そが 中天にかかる頃
やってくる 夜と愛の夢
2. Stáří / 老年(藤原公経=ふじわらのきんつね)
原詩:花さそう 嵐の庭の 雪ならで
ふりゆくものは わが身なりけり
かつて わが黒髪の
花吹雪に 彩られた時
何と 美しかったこと
しかし今 わが髪につもる雪は
風に誘われる 花ではない
このように 月日はめぐる
3. Vzpomínka / 思い出(吉備真備=きびのまきび)
原詩: 原和歌不明
木の葉も花も みな嵐にさらわれ
青ざめていた五月は 死に絶え 声も立てない
わが絹の 衣手に残るは ただ 梅の甘き 香のみ
4. Prosněný život / はかなき人生(小野小町=おののこまち)
原詩:花の色は 移りにけりな いたづらに
わが身世にふる ながめせしまに
花は咲き 色香に震えていた
わが人生の 荒波を
わたしは 熱っぽく 見ていた
花は咲き 花はしおれた
むなしく ああ むなしく
5. Stopy ve sněhu / 雪の上の足跡(静御前=しずかごぜん)
原詩:吉野山 峰の白雪ふみわけて
入りにし人の あとぞ恋しき
吉野山には ただ氷ばかり
私は見つけた 輝く雪の上に
あの人の 足跡を
星野きらめく夜 わたしは
高い岩の背を 越え
そして思った あの人の
あとについて 行くのだと
6. Pohled nazpět / 見返り(小野小町)
原詩:秋風に あふ田の実こそ かなしけれ
わが身むなしく なりぬと思へば
すでに空 雨の音が聞こえるか
ものみなの 色香は失せ
花は そして わたしは?
すべては風の 思いのまま
恋を囁いたが 愚かなわたし
ああ 楽しみや 愛撫は 消え失せた
行く手には 微笑みすらない
すでに秋 雨の音が聞こえるか
7. U posvátného jezera / 聖なる湖のほとりで(大津皇子=おおつのみこ)
原詩:ももづたふ 磐余(いわれ)の池に 鳴く鴨を
今日のみ見てや 雲隠りなむ
花が降る!
霧がそっと ヴェールをかける
君の耳に 響く叫びは
磐余の森の 鴨の声
その群れは 暗い影となり
池のほとりで 激しく踊る
私の心には 深い悲しみ
あくる年も
鴨の叫びは 野に響こう
だがそれを 聞くこともない