昨日、Soňa Červená(ソニャ・チェルヴェナー)さん(享年97歳)のお葬式がプラハとフラデツ・クラーロヴェーで執り行われました。
私は、現地に赴けませんでしたが、ネットニュースでその様子を見聞きし、ご冥福をお祈りいたしました。
この数年間、チェコで出会い、色々な形で私に影響を受けた人達が、次々とあの世に旅立たれました。
ソニャさんとは、フラデツ・クラーロヴェーのフィルハーモニーの定期演奏会とそれに付随した、演奏旅行でご一緒させて頂いただけでしたが、そのお人柄と彼女の芸術に魅了されました。
私は この時 R.シュトラウスの「4つの最後の歌」を歌わせて頂いたのですが、元々この公演を振るはずだった指揮者のF.ヴァイナル先生が… 病のため、ドイツ人の指揮者に代わり、
(ヴァイナル先生は、プラハのアカデミーの指揮科の教授で、まだ学生の私をドヴォルザークのTe Deumのソロに抜擢してくださった方で、この時はご自身の引退を視野に入れられたプログラムにまた私を抜擢してくださっていたのでした)
先生の為、先生の指揮ならば大丈夫と挑戦した楽曲を抱え、色んな思いが交錯し、確固たる自信が全く持てないまま、本番の日を迎えようとしていました。
ソニャさんは、この時 メロドラマの語りをされたのですが、音楽とソニャさんの深い声とが絶妙なバランスで、そこにお人柄・人生経験も加わった感じで…、正にソニャさんを中心に、素晴らしいステージを創っていらっしゃいました。
凄い。。。。の一言に尽きました。
オペラ歌手としての輝かしい経歴の裏には、良家に生まれつつも、ご家族の影響を受け、お若い時に既にチェコの政治的圧力の中でご苦労があり、歌い続けるため、生き続けるために亡命を選び、30年祖国の土を踏まずにいらした過去をお持ちでいらっしゃいました。
窮地に立たされた人間の取る行動…として、ソニャさんの決断と行動は、本当にタイミングを捉えていたと感じます。
決断と行動。。。我々はこの繰り返しで、自分を前に進めて行きます。
このソニャさんが、ゲネプロの私の歌を聴いて、ナント!わざわざ私を探して来て下さって、「貴女の声にStraussは合っているわ!と、オケと貴女の音色のバランスも絶妙よ!」と、真っ直ぐ目を見つめて語りかけてくださいました。
私はといえば、「ソニャさん、凄い。。。」と思いつつも、わざわざお声がけに出向けていなかった。。。
…というか…、わざわざそういう行動をとる人(同僚)は、まず居ない…、という環境に慣れてしまっていた…。
だから、逆に、なんだこの方は!!なんて真っ直ぐで清らかな人なのかと…
嬉しかった、ありがたかった、何故なら、彼女の目から、心からの言葉だと解ったから…。
物凄いエネルギーを与えてくださいました。
お陰様で、私は自分を信じ、自分に集中し、病床の先生にエールを送りながら、勤めを果たす事ができました。
素晴らしいキャリアと複雑で深い人生経験を持っていらっしゃる ソニャさん…が、まだまだ人生半ばの初対面の私に、まるで古くからの同僚に接する様に接してくださった事 …… とにかく とにかく 驚きました。。。
初対面のチェコ人が、自身の目の奥から、真っ直ぐに私の目の奥を見つめながら話して下さる事はまずなかったので、それは本当に本当に 驚きの出来事でした。
この頃の私は、ちょうど人間不信に陥っていた時で、なぜソニャさんがこんな風に私に接して下さっているのか?と目を丸くして最初は言葉が出ないくらいだったのですが、
あの直向きさ、澄んだ瞳、見たことも無い清らかな魂の持ち主であるソニャさん、その美しさに触れさせて頂けた事で、私はあの時期を乗り越える事ができたと感じています。
本当に忘れられない、素晴らしい出会いを頂けた事に、感謝の気持ちで一杯です。
先ほど、タイミング という言葉を書きました。
心の言葉に、感覚に従って、自分の感覚を信じて決断し、行動できた時に人は、タイミングよく波に乗る事ができると感じます。
私は、この2年ほど、自分を深く見つめることに専念していたのですが、様々な要因で人は、自分の心の声に従えなくなる事を学びました。
強い精神力だけでは、自分を生き切る事ができない。
運の良さ、育った環境、出会う人…、あらゆる事が 決断と行動に影響していきます。
この2年間の学びを基に、私は今一度、チェコでの活動期間、私が どんな状況に自分の身を自分で置いていたのか、当時の自分の状況や、私という人間の傾向を感じ直していました。
あの時代(1990年代)のチェコだったから良かった事…、大変だった事…、いっぱい思い出します。
クニプロヴァー先生、シャロウン先生、ヴァイナル先生、エリシュカ先生…、そして、ソニャ・チェルヴェナーさん、その他にも沢山の素晴らしい先輩方と本当に身近に関わらせて頂けた事は、私にとって大きな大きな財産です。
皆さんもうあの世へ逝ってしまわれた…。
一つの時代が完全に終わったと感じています。
ソニャさんの訃報で、彼女との出会いで感じた感覚を思い出し、あの経験が今の自分にどう生かされているか?と自問自答しました。
新しい時代で…、今、私は何がしたいのか?をキチンと自分に問い掛けて、
自分を常に見失わず、偉大な先輩方が生きてこられた様に、自分の心の声、感覚にしっかり沿って、決断・行動のタイミングを逃さず、繋がりたい人と繋がって、やりたい事に直向きに接して行きたいと思います。
ソニャさんの英語版Wikipediaがありましたので、載せておきます。
https://en.wikipedia.org/wiki/So%C5%88a_%C4%8Cerven%C3%A1
チェコ語ですが、ソニャさんが30年ぶりにプラハに戻った当時のテレビのインタヴューです。
自身の人生について語られています。
https://www.youtube.com/watch?v=92LZH3ULVhw
26:36 〜 若かりし日のソニャさんの歌で、Jakpak je dnes u nás doma? (”…で、今日の我が家はどうですか?” / 映画音楽)が流れます。
それを聴くソニャさんの様子にどんな30年を過ごされたのか。。。どんな気持ちでプラハに戻られたのか。。。思いを馳せました。
ソニャさん ありがとう。
安らかにお眠りください。